五章:怒りと悲しみの果てに

第26話

ベッドルームにて――




鼻をすすりながら、だけど厳しい面持ちで、花子は引き出しの中のものを大きなボストンバッグにつめてゆく。




物音に気付いた娘、亜美が眠い目をしばたかせながら、花子の背中に飛びついてくる。




「ママー、パパとなかなおりした?」




花子の背骨にまだ小さなアゴ先を乗せ、甘えてくる亜美の感触に再び涙がこぼれそうになる。手の甲でそれをぬぐいながら、花子が鼻声で言う。




「ごめんね、亜美。ママ、パパと仲直りできなかったの」




「ママ、なにしてるの?」




花子の心を知ってか知らでかたて続いて知りたがる亜美。花子の手元に回り、カバンのファスナー口を覗くよう、無邪気にしゃがみ込む。




「バックにね、お荷物つめこんでるの」




怪訝そうな亜美の顔。




「どうして?」




花子はふいに手をとめ、悲しげな顔になり、だけど亜美に向き合い、めいっぱい明るい声で微笑む。




「ね、亜美、ママとお旅行しようか? おばーちゃんちに」

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