四章:こいつは愛を勝ち取る戦争だ
第17話
「今日は出かけないのね。休日出勤は?」
土曜日の午前十時――
リビングのソファーに背もたれ、タバコを吹かしている大輔に、
洗濯物カゴを両手で抱えた花子がすれ違いざまに言った。
身を起こし、タバコの灰を灰皿に落としながら大輔。
「ああ、もう仕事がひと段落ついたからさ」
再びタバコをくわえ、今度は紫煙を勢いよく鼻から吐き出しながら大輔が言う。
「いやー長いプロジェクトだったよ。今回のがうまく行けば、
昇進! なんてこともあるかもな。って、ちょっと嬉しいだろ?」
リビング脇のテラスの物干し竿に、洗濯物を干し始めた花子の背中を見やりながら大輔は再びタバコの灰を落とす。
「けど、主婦はいいなぁ。優雅な感じでさぁ! いや、主婦の仕事がラクって言ってるわけじゃないよ? けど、そうやってバスタオルだのシャツだの干してんの見てると、なんかホッとするね。癒し系って感じ」
そこまで言うと大輔は再びタバコをくわえる。
ピクリ花子のこめかみが動く。大輔が目一杯息を吸うと、じゅわーっとタバコの先端が過熱し、みるみる灰になってゆく。
「男は大変だよ。外に出たら、7人の敵ってのはまんざらじゃないよね? はー、俺も引きこもって主夫したくなるよなー。熾烈な競争もないし。家事でミスしても、被害って、たかが知れてるじゃん? いいよなー」
そう、しみじみこぼしながら、大輔は灰皿に灰を落とす。
だけど、もはや吸うには短すぎると感じたのかそのまま灰皿の底ででねじ消してしまう。先端の押しつぶされたタバコが灰皿に転がる。
「花子もさーこうやってさ、家で家事してる分には、あんまストレスなくない?」
そう言うと、大輔は両手の指をカメラのフレームのように四角く形作り、花子のヒップに焦点を合わせる。
「お! だから最近花子のケツまわりがちょっとデカくなったのかな?」
花子の洗濯物を干す手の動きが鈍くなる。大輔は花子の変化に明るいトーンで続ける。気付くことなく言葉を続ける。指のフレームを花子に合わせたまま
「しあわせ太り? 俺のお陰かぁ! いいよなぁ! 花子はしあわせちゃんで。俺に感謝しないとね」
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