第14話
「安いよ、安いよ! 今日は大特価でなんと枝豆が一山、三十円だ! 赤字覚悟の大放出! ほら、奥さん! 旦那の晩酌のお供に一山どうだい!」
八百屋の親父が花子に威勢良く声をかけるも、うつむいたままに通り過ぎる花子。拍子抜けする八百屋の顔、だが、すぐに気を取り直し、後ろから財布を片手に歩いてくる主婦の群れに声をかける。
「奥さん、ほら丁度いーところに通りかかったよぉ! 安いよ! 安いよ! 今日買わなきゃそんそん!」
八百屋・魚屋・肉屋にスーパー、一体いくつの店の呼び込みを素通りしただろう。
普段だったら、さほど買う気がなくても、ちょっと覗いてみるそぶりくらいする花子だったが、今はとてもそんな気にはなれなかった。
ただ部屋にひとり籠もりきりでは耐え難い。子供たちを幼稚園へと送り出してしまった後のあの寒々とした空気。思わず逃げ出したくなる程に、息が詰まる。
気ぜわしく心の赴くままに財布をわしづかみ、アパートを飛び出したまではよかったのだが、喧騒の中、花子はあてもなく商店街をさまよう。こんな日々が一体いつまで続くのだろう? そんな風に思うと、めまいすら催してくる。
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