第13話

「ん、ああ。あともうちょっとしたら入るよ。お前先に入ったら?」




「そう、じゃあ、私はもう寝るわね」




扉越しの会話。切ない。唇をあま噛みうつむく花子。




いつもこれだ。




乳白色に染まる湯船のお湯を指先で弄びながら、花子は回想する。




三日前にシャツのエリ口についていたファンデーション。口紅こそはついていなかったものの、花子は見逃さなかった。肌色の粉末。指先で拭い取り、こすり合わせる。




花子よりずっと透き通るように白い肌。指先が白く染まるのを見つめ絶望する。




震える声を殺しつつ、花子は大輔にさりげなく尋ねた。なるたけ自然に、そうして軽い風を装い。




そんな花子を大輔は気にも留めない様子で振り返り、




(きっとそれはすべて演技に違いないのだが、なんて手練な)




その日は、電車のラッシュがことさらひどかったと言い、一度だけあったやたら大きなゆれの時に、女性が倒れこんできたから、


その時くっついたのだろうと、そう当たり前のように答えただけだ。




ついでによりリアルさを演出するためか、ここのところの通勤電車の込み具合をぼやきつつ。




(信じていいの?)




花子は大輔に心で問いかける。大輔に届いていた幾枚もの電子メール。熱を帯びた文面。




(信じれるわけないじゃない…)




ふいに花子は泣き出しそうになる。湯船に顔をつける。両手で顔を覆い、すすり泣く。

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