三章:向き合えぬ日々

第12話

あれから花子は二人に何度か相談に乗ってもらった。だけど、これといった解決策は見当たらず、ただ息を潜め大輔の様子をうかがうことしかできない日々が続く。




相変わらず仕事の名目で大輔の帰りは遅い。




そうして、たまに大輔が早く帰ってきたかと思えば、食事もそこそこに、書斎と称したパソコンのある小部屋に一人こもりっきりとなる。




一方、花子はといえば、リビングのソファーにたたずみテレビを流し見ながら、大輔のこもる小部屋の扉の気配を背中でいっしんに浴びとろうとする。両手を口元に組み添えつつ。




夜が更けるにつれ、テレビ番組はバラエティ色がゆたかとなり、番組内で笑い声が立つのもしばしばだが、花子はちっとも笑えなかった。息をつく。




時折響くタイピング音。マウスの音。小部屋から響く、小刻みに打ち込まれる音。




もう分っている。扉を開ければ、大輔は驚いた顔でこちらを振り返り、パソコンの画面を瞬時に切り替える。花子が決して覗き見れないよう。そうして、花子の心をすごい形相ではねつけるのだ。




あの形相…とても耐えられない……




花子の全てを拒絶する。大輔は気付いているのか? いないのか?




「あなた今、自分がどんな顔をしてるか分ってるの?」




口に出して問いかけようと思った日もあった。できなかった。




だから花子は決して扉をあけない。怖いのだ。だから、十二時を回ればただ口を開くだけ。扉を振り返ることもせず。背中で夫になげかける。




「あなた、もう遅いわよ、そろそろお風呂に入ったら?」




思わず震えそうになる声を張り上げ、何でもないフリをして。

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