第10話

「問い詰める!」




と、花子がフォーク片手に鼻息荒く言う。




「男は開き直るわよ、それか逆切れか」




麻美の冷ややかな横槍。




「よっぽどうまくやらないとね」




コーヒーカップを品よく傾けながら言う。




「本気か、浮気かも重要よ」




と今度は珠代。再び麻美の言葉、経験者はよく語る。




「浮気ならいいけど、本気だったらヘタに問い詰めると、これ幸いに女の所に行っちゃうからね」




そう言うと、麻美は白いカップの淵にべっとりとついた、オレンジのグロスを指先でふき取った。唇を何度もあま噛み、剥げ落ちたグロスを広げる。




「花子、ちゃんと旦那の世話はしてる?」




と珠代が花子を覗きこみながら、怪訝そうに尋ねてくる。




「してるわよ! お弁当だってちゃんと毎朝作ってるし。週に一回は、大ちゃんの好きな餃子を手作りしてるし。毎朝、玄関先までいってらっしゃいしてるもん!」




再び花子が、泣き出しそうに成ってくる。急いで自ら右脇の椅子にもたせかけたショルダーバッグからハンカチを取りだしてくる。




「尽くしすぎじゃない?」




再び、麻美のシビアな横槍。




「尽くしすぎると、男はついつい調子付いちゃうのよね。で、ツマを軸によその女に行っちゃう。男はホンノウ的に種をばらまきたがるからね」




麻美の言葉が終わらぬうちに、花子が叫ぶ。




「信じてたんだもん! 尽くしたらダメってどういうこと? じゃあ、じゃあ、結婚って一体なんなの??」




そうして花子は、溢れ出た涙をスタンバイしておいたハンカチでぬぐい取ってみせる。アイメイクを崩さないように泣くせいか、ちょっぴりこっけいな表情だ。

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