第85話
愛里の叫び、悲痛。苦しいのはよく分かる。いや実のところよく分からない。だけど分かるさ、愛里の苦痛だけは、いい加減。たとえ真っ赤な他人事だとしても、ここまでしつっこく訴えられたなら。そうさ、どんな鈍チンでも分かるさ。いやという程、悟るさ。
(だけど、そんなにイヤなのか。僕とのデートが、そんなにイヤなのか)
僕はいつしか顔をうつむかせ心で軽くへこみつつ、更なる愛里の攻撃、いや悲痛な訴えを受けるべく、しばし待ちかまえていた。
心に盾を構えスタンバイOK。だが、愛里の次なる言葉はなかった。待てども暮らせども愛里は口を開かない。
(全てを言い切ったか? 気が済んだか?)
僕はようやく面をあげ愛里を見返した。そうして口を開く。何が妥当なのか分からない。未知と遭遇した際、人はこれほどまでに無力なのか?
「なぁ、愛里。お前病院に行った方がいいんじゃないか? 絶対その方がいいよ。病院に行って、その病気を治そう」
全てが前代未聞だ。病院ってどこだ? 一体どこの病院を指している。これは果たしてひどい言葉なのか? それともいたわりか? 自分でも自分がよく分からない。
ただ僕に分かるのは、僕がどうしたらよいか皆目検討がついてないってこと。だから、全ての道理を知る賢い誰かが愛里をどうにかしてくれたなら、などとご都合主義的にも願ってしまう。
僕はただ、愛里とごくごく普通にデートをしたりだとか、いちゃついたりだとか、ただ当たり前のカップルたちがすごすよう、二人の日々を楽しみたいだけなんだ。ただそれだけなんだ。ほんっとにそれだけなんだ。
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