第83話
いえ、ダイレクトに行きました。だってストレートな方が話も早いし。
「だって、お前、居酒屋であんなにたのしそーに飲んでたじゃないか。街中もフラついてたし」
と言いつつ、
(飲んだくれてたけど)
と僕の脳裏にちらりワンカップ大関を片手にした愛里の姿が浮かぶ。
「駅だって」
と言葉を継ぎ足しつつ、
(吐いてたけど)
と、またも僕の脳裏を目一杯ゲロっている愛里の姿がよぎる。
愛里はベッドの上でじだらくにひざを折り、うつむいてぽつりつぶやいた。さらり頬に流れ落ちる横髪で愛里の表情が読み取れない。
「あれは修行だから」
「修行?」
僕は突如愛里の口からこぼれ落ちた不自然なる単語に眉間にしわ寄せ小首をかしげる。
「そうだよ、私は病気なの」
愛里はベッドの端に両腕をつき、身を乗り出すと、僕に訴えかけてくる。
「自分でもナゼだか分からないけど、人に近寄られると気持ち悪くなっちゃうの、胃がムカムカしてくるの、吐いちゃうの。なぜだか人の群れに飛び込むと心身がみるみるボロボロになってゆくの。お酒なしではおえないの、やってられないの、無理なの」
懇願するような愛里の目。悲しそうな、ふがいないような、悔しいような、さまざまな彩りが想いが光に当てられ、きらめくビー玉のよう次々と愛里の瞳の奥に浮き上がる。
「だから映画も喫茶店も遊園地のデートも、公園での散歩も食事だって、全部全部ぜーんぶ、修行なの。私にとっては修行になっちゃうの」
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