第82話

僕を振り返らず、やけに冷え冷えとした口調で投げつけられる、愛里の山のような悪態。




まるで子供みたい。だけどなんだかその愛里の山盛りの悪態が、仲直りしようよの合図のような、そんな気がして僕は小さく笑う。そして口を開く。




「悪かったよ、オレも」




僕は愛里の背中に声を投げかける。愛里は振り返り、ベッドの上に起き上がると、不満げな顔で僕を覗き込む。




「オレも? も?」




愛里の言葉に僕は首をすくめすかさず口を開く。




「いえ、私が悪うございました。ちょっと……いえ、かなり言葉が過ぎました。以後、このようなことが無いよう、重々注意いたしたいと思います」




なんてしおらしい僕、だがその声はやけに野太く我ながらどこか開き直っている。




やはり納得しきれていない様子の僕の心模様。けれど、愛里は僕の謝罪にすこぶる満足げな笑みを浮かべる。とりあえずの円満仲直り。だが、こいつは何かがおかしい。なぜだか僕一人だけが必要以上に悪者にされている。




たが、ここで今僕が心内の不満をストレートに押し出せば、またも愛里との激しい口バトルがおっぱじまるのかと思うと、とりあえずその場を丸く治めようと、うすら笑う。




こうやって男というのは、女の尻にしかれてゆくのだろうか? ただやはり解せない。僕は再び口を開く。今度は愛里の琴線に触れないよう、極力言葉を選ぶ。




「だけどさ、くどいようだけど。なんで、そー出たがらないの?」

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