第76話
「なんなんだ、あいつは! なんなんだイッタイ、なんだっつーの!」
いまいましげに吐き出される言葉。僕は乱立する怒りの言葉と同時に、通りすがりの植木の葉っぱを一枚だけむしりとろうとする。
だけど勢いあまってうっかり枝ごと引っこ抜ける。僕がもげた枝に仰天していると、僅差ですれ違う数人に、まぁなんて無茶なことを、とあからさまにイヤそうな顔でチラ見され。バツの悪い顔で、あらぬ方向を見やる僕。
駅に向かう最中、僕は手の中の小枝をどうにかごまかしながら、だけど、手持ち無沙汰に小枝を振り回しながら着々と歩いてゆく。
「ほんっと、意味不明だっつーの!」
再び、誰に言うでもなく思わず口をつく悪態。
「あんな女、つきあいきれるかってーの! 災難だよ、災難! なんちゅー災難!!」
通りですれ違う人々の内、幾人かが僕のキレ交じりの独り言をやけに気味悪がったり、軽くびびったりして距離を離すのを、視界の端に軽く感じるけれど、怒りはどうにも収まらない。言葉も止まらない。
「吐くわ、大関かっくらうわ、オマケに手首まで……」
だけど、そこまで口に出し、僕の歩幅が途端にゆるむ。
(手首まで、切る……)
僕は立ち止まる。フイに耳に飛び込んでくる声。
『この包丁、とてもよく切れるんですよ』
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