第74話

「私は病気なんだ! 仕方ないだろ! 健康なお前に一体何がわかるんだ!」




愛里の意味不明の切り返し。どこをどう切り返せばそんな切り返しが跳ね返ってくるのか、てんでわけがわからない。だけど愛里は怒っている。どうやら本気で。




僕と愛里のこの温度差。僕は戸惑うばかりだ。そうして僕が戸惑っている間にも愛里は両腕に目一杯力を込め、また時に肩と胴を使い、僕の体を部屋から押し出そうと、何度もごり押してくる。 




まったくもって、その反応は意味不明。だけど、僕の怪訝などお構いなく、愛里は叫ぶ。




「人が嫌がることを強制するんじゃねぇ! お前は行きたいかもしれないけど、私は行きたくないんだ! お前に私の気持ちが分かるか!」




くの字に折れきった愛里の細い両腕。押せども押せども僕がいっこうに後ずさりしないせいか、僕の腹に愛里の頭がつきささり、めりこみ、ぐもる愛里の叫び。それでもうっかり二、三歩後ざするも、すぐさま僕はふんばって負けじと両足を開く。




一体、何が負けじなんだか分からないが、このまま部屋からすんなりおん出されるのは、どうにもシャクにさわる。僕を押し出そうとする愛里、押し出されまいと踏ん張る僕。




それでも愛里は懲りずに必死で叫びながら、僕を部屋から押し出そうとする。




「ちょっと自分が健康だからって、調子こいてんじゃねー! なにがデートだ! 出てけよ!!」

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