十二章:愛里という生き物

第72話

「死んでもって、んな大げさな~」




と苦笑いながら僕。思わず口を開く。だけど愛里は、




「いーかーなーい! 行きません!」




そう言葉をやたらめったら強調しながら言い、そっぽを向く。




「んじゃあ、今日はお日柄が悪いということで、また明日にでも行きますか? あさってとか、どっか楽しいとこ」




僕が首筋をつめでかきながら愛里に言うと、愛里は身を乗り出し、僕に顔面をあからさまに寄せ付け、いやみったらしく言い放つ。




「明日も、あさっても、しあさっても、一週間後も、一ヶ月後も、半年後も、一年後も行かない! 私は行きません。どこにも、行きませんから!」




そうして愛里は再びふいっとそっぽを向く。僕は愛里の態度、真意を計りかね、首をかしげる。




「なんで? 何を怒ってんの? そこはキれるところじゃないでしょう? オレなんか悪いことしたっけ?」




僕はそう言いつつも、ひょっとすると僕の下心がすっかり愛里にバレてんのかしらと、ちょっとどぎまぎしながら愛里を見やる。




愛里は一人押し黙っている。愛里の様子を見る限りどうやら僕の下心云々でもないらしい。僕が愛里を見下ろしていると、愛里が僕を見上げ、訴えかけてくる。




「いいじゃん、ここで。お部屋で。ここの一体何が不満なの? お茶だって飲み放題、美味しいお菓子だってある」




愛里は両手をこぶしにし、必死にジェスチャーし僕に訴えてくる。




「映画が見たいならDVDも一杯録画してある。漫画も本もあるし、雑誌はちょっと古いけど、けど……どーしても欲しければ、真ちゃんがコンビニで最新号を買ってくればいいじゃん!」




愛里の言い草に僕は首をふり脱力。思わず苦笑いする。そうして、苦笑いのまま口を開く僕。

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