第69話

――階下。




トイレ前の洗面台。さして出す気はなくとも、出るもんは出る。とりあえず用を足した僕は、洗面台で両手を洗いつつ、一人ため息をつく。




最近の若者は、女子の家に男が転がり込んで、両親の視界の中で平気で同棲するらしい。当然セックスも込みだ。アンビリバボー! んな、アホな!? 新手の入り婿制度か? よくもまぁ、親御も許すな! と呆れちまう。




親から言わせると、見えないところで好き勝手やられるよりは、まだマシだからとか。僕は眉をひそめあらぬ方向を見やる。視界に飛び込んだ小窓から、緑と塀と路地がのぞく。




(最近の若者ですが、そんな暴挙には出れません。ましてや、親御が階下にいるというのに、いつ何時扉が開けられるか分からないというこの緊迫した状況では、到底行為には及べません!!)




これは果たして、僕が小心者だからだろうか。いやいや、そんなことはあるまい。僕が愛里のスカートだの上着だのに片手を突っ込み、やらしーくまさぐっている最中に部屋の扉をパッカリ開けられたらそーとーやばい。というか、しゃれにならん。




(あいつ、結構あえぐしなー)




ましてや、愛里にあんな悩ましげな声を部屋中で発せられたら、そっこーで親御に死ぬほど張り倒されるのは、もはや目に見えている。ベッドの中で乱れ、あえぐ愛里を脳裏に浮かべ、にへらと僕。




いやいやいや、これはホンット死活問題だ。愛里のあえぎ声を脳内にリプレイして喜んでいる場合ではない。そう、二度とこの家の敷居をまたがせてもらえそうも無いのは、僕だけの予感ではあるまい。




せめて……せめて! 愛里の母さえいなければ。

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