第68話

僕は愛里の肩に背後から腕をじりじりまわそうとする。すると、突如パッカリ愛里の部屋の扉がひらく。




「愛里、お茶を持って来たわよ」




扉からひょっこり突き出される顔。愛里の母親がお盆をかかえ、またも現れた。




「かーさん、もーいいのに、今日はもう三度目だよ」




愛里の言葉に愛里の母は微笑んで、僕にも会釈をしてくる。




「美味しいお菓子を戸棚の奥にしまいこんでいたのをすっかり忘れてたの」




そう、手を出せない。




愛里に手を出せないのだ。これでは指一本触れられない。こー愛里の母親に、ちょこちょこ頻繁に部屋を訪れられては。お茶に、お菓子、忘れ物に、借りたい物に、ちょっとのぞいただけetc.なんだろうこの居心地の悪さは。ちっとも落ち着かない。




くつろぎきった顔で僕の脇で談笑しあう二人。愛里と愛里の母親。それを眺め見、僕は愛里に心で訴える。




(なぁ、愛里。居心地いいのは、ほんっとお前だけだぞ。僕はちっとも、居心地なんてよくねーぞ!)




そして愛里の母。お盆を置きがてら、腰おろし、口を開く。




「私も一緒にこのお菓子いただこうかしら、あんまりおいしそうだから」




ときた。




「あの、ちょっとお手洗いお借りしていいですか?」




と僕。愛里と愛里の母と僕との奇妙な三角関係から一秒一刻でも早く抜け出したくなり、一人立ち上がる。

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