第64話

「んとに、大丈夫なのかー? やんないだろうなー」




そう言って、ケーキの最後の一刺しを口に放る僕。




「しないしない、だって愛を感じるもの。愛される喜び、うっとり」




フォークを片手に僕にうっとりなポーズを取ってみせる愛里。




「ほんとかよー」




と、いぶかしげに言いつつも、その日なんだか、ぐっと愛里と距離が縮まったような気がした。




「あ! 真ちゃん、その指どうしたの? 包帯がぐるぐるじゃん!」




とようやく愛里。僕は眉間にしわ寄せ、歯をむき出し愛里に笑う。




「今頃気づいたか、全部お前のセイだ。だーかーら、このイチゴは没収!」




そう言って僕は、愛里の食べかけのロールケーキからイチゴを二個まとめてフォークで刺し取り、口の中に放る。




「あ、ひどーい、それ最後に食べようと思って取ってたのに」




愛里が愕然と叫ぶ。




「だからこうして奪い去られる。甘かったんだよね、ケーキが。あー紅茶がうめぇ」




僕はしれっとした顔で、カップを傾ける。




「ううう、イチゴが」




愛里はケーキの小皿を両手にし、イチゴのあったはずの空間を恨めしそうに見つめている。愛里の眉間の可愛さに思わず吹き出しそうになってしまう僕。




「これはないよぉ、真ちゃん。信じられない、ううう。フルーツロールケーキが。うう、イチゴがメインなのに」

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