第62話

「はい、わかりました」 




そうして小さくうなずいた。




いつの間にか、ちょこん正座座りまでして、素直にオレの言葉に従っている。拍子抜けだ。なんてしおらしい愛里。




オレの真意が通じてよかった。泣き出さなくってよかった。語彙がさすがに強烈すぎたもんな。東京湾って、速攻警察に突き出されてもオカしくない、立派な脅迫罪だ。それが例え愛と八つ当たりがハーフ&ハーフで入り混じった、恋人の真摯なるメッセージだとしてもだ。




「そんなに怒られたのってはじめてだよ」




オレを見上げ、戸惑いつつもちょっとだけ照れたように笑う愛里。




「おーう、そうか」




まだ、語尾が軽く巻いている。言葉を戻しそこねて中途半端なヤンキーみたく合図地をうつ僕。いやオレ。




「真ちゃん、本気で私のこと心配してくれてるのね」




「おう、わかってんじゃねーか」




ちょっと違うような気もするが、こそばゆいのでそういうことにしておく。その日のオレはやはり、しばらく態度を戻しそこねて、中途半端なヤンキーみたく愛里の部屋でやさぐれ立ちしていた。




だが、いい加減えせヤンキーは居心地が悪いので、その場に腰を下ろし、ひと伸びして、全部をリセットして元に戻すことにした。




「あーつかれた、なんか肩こった、飲むものねー? 喉かわいたし」




そのスイッチの切り替えに目ざとく気づいた愛里が、フルーツ満載のロールケーキとお茶をかかえ、僕にすりよってくる。




「ねねね、真ちゃんまさか、その筋の人じゃないよね」

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