第60話

僕の言葉がぴたりとまる。なぜなら? 




一体なぜなんだ? 




そこまで吐き捨てて、ふと沸き起こる疑問。目の前では、愛里が言葉を待っている。おびえながら、だけどスタンバイして僕の言葉の続きをひたすら待っている。




僕の頭ん中は見事にからっぽで、妥当な理由なんて何一つ浮かばない。だけど、僕は空っぽの頭のまんま、ためらわず大口をあけ言い放つ。




「このオレ様が不愉快だからだ!! 何より、果てしなく痛ぇ!!!」




頭に来た反動だろう、思わずめいっぱい愛里に眼をくれ、ドスをきかせて言いあげる僕。




いやもはや、ここまでくると主語はオレという気分だ。




「いいか、二度とそんなマネすんじゃねーぞ!!! ごるぁぁぁ!!」




本日のフィニッシュだ。愛里を脅しつける。しかし、ドスをキメるというのは、なんて爽快なんだ。面白いくらいに語尾が巻き上がり、我ながらなんておっとろしー。




とてもはじめてのドスとは思えないくらいの出来映えだ。まさに会心の一撃! 日夜いざこざに明け暮れ、日々折々につけドスをきかせ続け早三年のヤンキー張りに秀逸な出来。爽快がてら、オレはかくも付け加えた。




「次やったら……東京湾に沈めるぞ! 簀巻きにしてだ! いいな愛里、てめーは海の藻屑だ!!!」




っておいおい、我ながら何を言い出すのやら、漫画じゃねーんだから。だけど、この言い回しは決して嫌いじゃなかった。なぜなら、オレの今この瞬間の憤りを伝えるには、最高に近しい脅し文句になりそうだからだ。




「魚のえさになりたくなけりゃ、二度とすんじゃねーぞ! ごるぁぁぁ!」




 語尾が再びキマった。だけど愛里はというと、オレのうっかりエスカーレートした脅しに、すっかり硬直している。慌てたオレは少しフォローを加えてみる。

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