第59話
僕は愛里に有無を言わせず、笑顔の消し飛んだ顔で言葉を浴びせかける。やがて、目的のもの全てを愛里から押収し、両手に抱え込んだ僕は、指先の痛みでもってどこか不機嫌を帯びた顔でつぶやく。
「よーし、これで全部か」
半ばおびえつつも、怪訝そうに僕を見上げる愛里。
「じゃあ、これはオレが全て没収する」
「えー!」
僕の言葉に不満げな愛里の声。
「えー? えーじゃねーだろぅ!」
僕は愛里を見下ろし、シレッとした面持ちで、だけとその実、口ではとんでもなき核心をついてみる。
「で、この買ったばっかのカッターは、もう使ったのか? 手首を切るのに」
愛里はうつむいたまま何も答えない。
(もーう、使ってやがる!)
よもやと思い口に出したものの、まさかの体たらく。もはや完全に愛里に裏切られたようで、僕は軽くジャブをくらったかのよう、めまいを催していた。
僕がカッターを取り上げた意図が愛里に何一つ伝わらなかったという現状。しかも、わずか三日ともせぬうちに新たなるカッターを入手し、相変わらず手首に赤い切込みを追加する愛里。
そう、このあまりのお手軽さは『追加』と呼ぶにふさわしい。この心底ろくでもなき追加行為。僕はすっかり頭にキていた。
「いいか、百歩譲って大関は許してやろう、酒なんざ可愛いもんさ、少々のんだくれたってかまわねー! カンゾーがイカれない程度にな!」
僕は、怒りの形相でとどまることなく愛里に言葉を浴びせかける。
「だがな、カッターはなしだ。腕を傷つけるのはぜってー許さねぇ! なぜなら」
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