十章:愛しの愛里、愛里と一緒

第58話

「おーい、愛里ぃ!」




愛里の部屋のドアを右足で激しく蹴りあける僕。いつになく野太く開き直った僕の声が部屋中によく通る。




僕の人差し指の切り傷は保健室では納まらず、病院にて三針を縫い、半ば大げさに包帯でぐるぐる巻きの治療を施された。病院の扉を抜けると、僕は残りの講義を全部投げ捨て、そのまま愛里宅へと直行したのだ。




勢いあまって壁にぶち当たるドアの取っ手。あまりに激しいドアの開きに、ぎょっとした顔でおびえる愛里。部屋の隅に座り込んだまま、僕を見上げてくる。だけど、かまわず僕は口を開く。




「おい、出せよ! おら、出せ! カッター。どーせ新しいの買ってんだろ?」




僕は愛里の目の前に右手を差し出し、雑にぶらつかせる。




ずきずきとうずく左手の人差し指の痛みで怒り心頭なせいか、全ての動きが普段より数段、乱暴になっているのが自分でもよくわかる。




僕を凝視しながら、ベットの下の大関に手を伸ばし封をあける愛里。そうしてカップのふちに唇をあて、一気に飲み干そうとする。




「おいこら! 人の話きかずに大関かっくらうんじゃねー」




僕の制止をよそに、愛里は大関を二分の一ほど飲み干した。




「まぁ、いい、出せよ! カッター!」




僕のあまりの剣幕におそるおそるペン立てのカッターを差し出す愛里。やはり買っている。思ったとおり。だけど見事裏切られたようで、軽くショック。今度のはピンクのカッターか。




僕は愛里にぶちキレる寸前の笑みでもって微笑み返す。そうして、笑顔を無理やり顔面に貼り付けたまま口を開く。




「ハサミもだ、こないだ使ったキリもな、あとホッチキスも出せよ」




「でも」




と愛里。




「四の五の言うんじゃねー!」

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