九章:がんばります。
第50話
僕の頭ん中の小人がまたも慌てふためき、騒ぎだした。一匹、二匹、三匹が、すったもんだで脳内の小庭を右往左往している。
だけど、愛里は好奇心で瞳孔をめいっぱい押し広げた両目でらんらんと僕を見つめ、これから巻き起こる楽しい出来事を今か今かと待ち受けている。
僕は愛里の手首から勢いよく噴出す鮮血を思い、仕上げにラスト一発だけ大きく身震いをする。かくして、気を取り直した僕は愛里を振り返らず片手だけ差し出した。
「長い定規と鉛筆ある? ボールペンでもいいけど」
「はい!」
手術真っ只中の医療助手のよう、半分ちゃらけ気取って僕に定規とボールペンを手渡す愛里。
僕はダンボール箱に下書き用の線を引き始める。定規をダンボールの壁面に平行に添え、定規の目盛りにそって、細かく長さを測り、丹念にラインを引いてゆく。
覗き込む愛里の気配を視界の端の黒影と酒の混じる呼気で感じながら、僕はやがて作業に没頭しはじめる。
かくして二十分ほどして僕らの目の前に手製のダンボールの引き出しが一つ出来上がった。元あるダンボールの高さをカットしてベッド下に収まるぎりぎりで浅く仕上げ、切り口を黄土色のガムテープで丁寧に縁取ってみた。
取っ手代わりに取り付けたブルーのビニールのねじり紐がちょい安っぽい感じだが、まずますイメージどおりの出来映え。
二人でしゃがみこんで完成品を見つめる。愛里を振り向いて僕。
「ダンボールのまんまがイヤなら、色紙とか布を張ったら、もっといい感じに仕上がると思うよ」
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