第47話

「今日もお母さんに、大関全部没収されて、捨てられたの。だから行けなかったの」




まるで事情がつかめず、すっかり合図地を打ち損ねている僕。愛里は一人おびえている。ひざを抱え込み、宙をさまよう愛里の視線。




「また捨てられちゃうから。見つかったら絶対、捨てられちゃうから」




そこまで言い終えると、僕をすがりつくような目で見上げる愛里。




「どうしよぉ! どこに隠そぉ! ね! どこに隠せばいいと思う?」




どうやら、僕の一言が愛里の触れてはならない琴線にうっかり触れてしまったようだ。いつもの愛里のあのふてぶてしさは一体どこへやら。




途端にぼろぼろと崩れ落ちる、これまでの愛里のイメージ。




そうして、全てがむげおちる隙間からみるみる覗きはじめる、人一倍危うげな愛里の心の片鱗。このアンバランスさが手首の目盛りのような傷口というわけか。そう思うと、なんだか途端に愛里が可哀想に思えてきた。




そうだ、愛里は女の子なのだ。結構華奢だし。手首だってこんなに細っこいじゃないか。背だって僕よかずいぶん小さい。そう、モーテルで抱きしめた愛里の腰は確かにめぇいっぱい細かった。抱きしめがいがないほど。そう思うと途端に僕の中の紳士なココロがむくむくと湧き育ってきた。




なんて男は単純なんでしょう。我ながらバカげていると思うものの、悪くない心境。そう、誰かにめぇいっぱい優しくするのは、決して悪ことじゃない。僕は毎度のごとくちょっとばかり作り込んだ、だけど今回はすっとぼけの表情でもって、ベッドを見やりつつ、愛里に横顔で話かける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る