第46話
「ね? 今の何?」
僕はカップを手にする前に愛里にたずねた。
当然だ。あんな大仰な大活劇を目の前で見せ付けられて突っ込まないヤツがいるなら見てみたい。しかも、愛里の母親にはまるでナイショと来た。
だけど僕にはその舞台裏をまるきり見せてもてんで平気らしい。なんだろ? 胡散臭さ倍増。興味津々。
だけど、愛里のすっとぼけ。というか、本気なのか? 天然なのか?
「何が? 遠慮せずに食べたら?」
そう言うと、愛里は僕にマドレーヌの小さな袋を一つ突きつけてきた。拒否する理由もないので、僕は素直に小袋を受け取って封をあけ、一口かじるも口を開く。
「いやいや、何がって。なんで、ベッドの中に大関隠すの? んなに大慌てで。いいじゃない、別に見られたって。酒なんてダレだって飲むでしょ?」
僕はそう言い終えて、マドレーヌを二口目。しっとりとしたスポンジ生地が、予想以上に甘ったるくて、僕は残る全部を口に放り込んで、紅茶で一気に流し込む。愛里は一人押し黙っている。
僕はというと、マドレーヌに焼き込まれていたマーマレードの小さな、だけどちょっぴり硬いカケラが歯茎の奥にはさまって、なんだかやけに居心地が悪くて、必死に舌先で探っていたりする。
「捨てられちゃうから」
とポツリ愛里。
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