八章:愛里の実態
第44話
フイに部屋の斜め階下、階段から足音が響く。
木造のきしむ音を機敏に察知した愛里が、あわてふためき始める。そうして、僕が首をかしげ怪訝に愛里を眺めていると、部屋の奥半隅に横たわるベッドの布団が愛里によって勢い良く音を立てはぐられる。
男の僕でも結構重かった大関の袋とお菓子とカクテルのつまったコンビニ袋。火事場のクソ力か愛里は同時に二つも一気に持ち上げ、ベッドの中央どまんなかに投げ込むと、すぐさまそいつを隠すよう、布団をかぶせ込み、両腕で目いっぱい押さえ広げ込んだ。
ボフっという篭った音がして、隠し込んだ物体の痕跡が消えうせると同時に、部屋一帯に女の子特有の甘い香りが広がる。
そうして、きょとんとする僕を尻目に、愛里は今度は机の引き出しから、携帯用のミントの口臭スプレーを取り出すとシュシュとお口に二、三度吹きつけ、舌先で口内になじませる。
そいつも布団の間にさっと隠し込んだ。
愛里のあまりに大胆なる動作に、のワリあまりにすばやい動きに僕が唖然としていると、予定どおりに開く部屋の扉。
そして愛里はというと、元通りの指定席。何食わぬ顔で絨毯の上にちょこん座りし、扉口を見上げスタンバイOK。
そうして現れたのは愛里の母親らしき人物。さっき一階の廊下半ばで鉢合わせたエプロン姿の中年女性だ。彼女は両手に大きなお盆をかかえ、ひざをそろえ、低く僕らの目線にまで腰を下ろしてきた。
「愛里、お茶をお持ちしたわよ」
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