第39話

半ば声を上ずらせながらの、僕。かろうじての笑顔。




「は?」




怪訝そうな愛里。再び僕、愛里の両肩を持ち。




「だから、大丈夫だよ!」




よかった今度はまともに声が出た。




「え? なにが?」




愛里の反応、いぶかしげな顔にようやく僕は自らの大いなる失言に気づき慌てて言い直す。よかったバレてない。




「あ、いや、大丈夫だった? いたかったよねー。包帯でも巻こうか?」




そうして愛里の手首に再び触れようとする。それをすぐさま振り払う愛里。




「じゃなくって、お酒の話でしょう? 手首の怪我のことはもういいから。こんなの別に大した傷じゃないし」




「え?」




「だからね、お願いしたいの、ほら」




と言って愛里は、僕にほとんど飲み干しているワンカップ大関のグラスを振ってみせる。




「これ一本でね、もう終わりなの」




愛里が手にするワンカップ大関には、カップの下のほうから、わずか一.五センチほどのお酒しか残ってない。




「これじゃあ、おぼつかなくて出れないよー。隣町のコンビニまで絶対もたない」




 作りこんだかなしそーな顔で愛里はそこまで言うと、僕に千円札を三枚つかませてくる。




「お願い、コンビニでワンカップ大関を買ってきて! お願い!!」




「は?」




なんで、僕がこいつの使いっぱしりをしなきゃなんないの? しかも来たばっかなのに。自分で買いに行けよ! と思わず僕がむすったれていると、それを見越してか愛里が懇願する。




「来たばっかりで、ほんっと、申し訳ないんですが。おつりは全部あげるから、お願い」




愛里があんまり必死だったのと、僕もちょっと頭を冷やしたかったのもあった。というより、正直この場より退散したかった。




「で、何本買ってくればいいの?」




と僕。




「とりあえず十二本で」




結局、僕は愛里のためになぜだか見知らぬ地、愛里宅の最寄のコンビニへワンカップ大関を買いに走らされることになる。

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