第38話
愛里の部屋の絨毯に気持ちへたりこむ僕。愛里が僕に向かいしきりに何かをしゃべくっちゃっているが、僕の頭の中はすっかりパニックで、愛里との会話どころじゃなく、必死に自問自答を繰り返す。
(ちょ、落ち着け! 落ち着こう。冷静、冷静に。客観的に見てだ、いや主観的に見てもだ、手首を切るのが趣味な女ってどうなのよ?)
僕は愛里に頭ん中をけどられないよう、顔をそむけ、必死に高速で思考を駆け巡らせる。
今後の僕の身の振り方など、いっぱいいっぱい。耳の脇で愛里のしゃべくる声が聞こえるような気がするが、頭の中にはてんで入ってこない。
ただめぐるは、今後の僕の身の振り方だけ。頭の中の僕の小人が、体をちぢこまらせて、愛里に両手を合わせ申し訳なさそうにわびている。
(すみません、僕ちょっと無理そうなんですけど。いえ、決して愛里さんが悪いわけじゃないんです。僕が若くて未熟なもんで、ほんでもって、なんだろう、包容力が足りないのかな? だから、交際の件ですが、あれ、なかったことにしてもらえませんか? とかOK?)
そこまでわび台詞を予行演習して、僕は思わず腕組み身を折る。
僕の目の前に広がるのは、もはや愛里の部屋の景色ではない。そんなものはとっくにカヤの外に追い出して、ただもう自問自答。
(いやいやいや、ホテルであれだけやっといて、それは鬼畜だろー。ここで投げ出しては男がすたる! 真一郎よ、お前は鬼畜野郎に成り下がりたいのか! いや! 違う!! 僕は鬼畜野郎じゃない!)
なんだかんだと必死に自らを鼓舞し、僕はようやく思い切って面を上げ、愛里に笑う。
「だ、大丈夫だよ!」
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