第37話

――未知との遭遇。




愛里はこの時点でとうとう僕にとっての宇宙人的な存在となった。と言っても、とうの昔より愛里の行動の全ては、到底僕には理解しがたいものばかりだったのだが。




生意気だとか、ぶしつけだけだとか、そんなレベルをはるかに超える愛里の特異な存在。




未知との遭遇――。




それは恐怖、だけどいくらかの好奇心もいざなう。




だけど、愛里のこの腕の有様はやはり恐怖。そこはかとない悪寒に硬直している僕の腕から、愛里は自らの腕を取り返し、袖口を直しながら口を開く。




「主にカッターかな? カミソリとか。痛いけど、なんか安らぐ。悩みとか頭の中のぐるぐるが痛みで消し飛んで、ラク。だから、むしろ癒し系」




愛里の言葉、意味不明。アンビリバボー! 




こんなヤツって現実居るんだ。なんだか根暗なドラマか病んでる陰気小説みたいだな、と未知なる新世界にしみじみ感慨ふける僕。だけどハタと気づく。突きつけられるひとつの現実。




(こいつが僕の彼女!? 三日前からだけど、僕の彼女???)




思わず叫びそうになる。途端に、愛里の特異の全てが僕の上に覆いかぶさってくる。あたかも不思議の国のアリスに飛び掛るトランプの兵隊のよう、とめどなくバラバラと僕に襲い掛かってくる。これは未知との遭遇、知的好奇心などと言ってる場合じゃない!! 




こいつは僕の彼女だ! ほんの三日前からだけど! そうだ、僕の彼女なんだ!!




(こいつ!! どうすればいいの??!)




僕は言葉を根こそぎなくし、愛里という存在をただ覗き込んでいた。呆然と口をあけっぴらげ、あごを突き出し、トンマ化した感情のまま、ただもう愛里を眺めていた。思考停止! 機能ストップ! 




そんな僕を怪訝そうに覗き込んでくる愛里。

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