第32話

本日、二回目の映画公演もいよいよ中盤となり、だけど駅前で相変わらず立ちんぼの僕はたまらず携帯を鳴らす。そうしてつながったと同時に携帯越しの愛里に半ばキレ気味に叫ぶ。




「いい加減、来いよ! 何すっぽかしてんだよ! 映画終わっちまうだろ!」




 だが愛里はすぐに答えない。耳元に響く愛里の小さな呼吸音に少しの間。ぽつりつぶやくような声で愛里は言う。




「ごめん、気分が乗らなくて」




(はぁー!?)




 僕は愛里の言い草にカチン! と来る。なんてわがままな女なんだ、わがままわがままだとは思ってたけど、ここまでとは!!! すっぽかしの理由が




「気がのらない」




だぁ!?


 




僕は遠い人並みを誰となくにらみつけながら携帯越しに愛里につっけんどんに言い放つ。僕の眉間にみるみるたてじわが寄るのを感じる。口はしがゆがむ。




「おい、お前んち教えろよ。住所と道筋。今すぐ行くから」




(殴りこみに!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る