第29話

呆然とした顔でミーナを見つめる木崎。いつしか涙もやんでいた。かすかに苦笑いしながら言うミーナ。少女とは思えぬ大人びた、そうして、少女らしからぬ諦めの念を帯びたまなざしで言う。




「もしも、生きて帰れたら、結婚しようって」




ためを含むと再び口を開く。




「あんな危ないところに行ったら、死ぬ危険性も高いってわかったけど、だからこそ賭けになるって言うか。あたしも一度は止めたけど、けど、やっぱり賭けたし。だから、あたしたち賭けに負けただけなんです」




ミーナが言い終える前に、ミーナの頬を張り倒す木崎。




「あいつがわざわざ、死にに行ったって?


アフガニスタンくんだりにまで行って?」




泣かないミーナ。張られた頬に手を添えることもなく。




「しかも、自分の命をそんなコイン占いみたいな、アホな賭け方をしたって?」




すさまじい形相でミーナを怒鳴り散らす木崎。




「お前もお前だ! なんで怒らない? そんな仕打ちをされて、なんで怒らない! なぜ止めなかったんだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る