蒼い海で

第10話

いま、目の前にある1つの海

果てしなく蒼い広い海


あの夏あの日々を2人で

遊んだ想い出の日々をキミに

『覚えてますか?』と尋ねる


『水かけあって遊んだね』と

キミは笑顔で僕に返事をした


『風邪ひいたの覚えてる?』と

海辺に響き渡る波の音と

はしゃいでる君の横顔に向かって

僕は返事をかえした。


『忘れるわけないじゃーん』

2人で怒られたんだからさ、と

波と遊びながら言う。


僕は君の隣に行って寄り添う。

そして『バーーカ』と水をかける。

『つめた、もー何すんのさ』って

笑いながら怒るキミ。


『連れてきてくれてありがとう』

そうキミは泣きそうな笑顔で

ポツリ呟くように言った。


いっそ、泣いてくれたら

抱きしめることができるのに。

キミはいつだって強がる。

その姿は儚く消えそうで。


ねぇ、僕はそんなに頼りない?

キミの傷み受け止められると

思うんだけどな…なんて

おもうんだけど口には出せない。


だって言ってしまうと関係が

壊れてしまいそうで怖いから。


いつからだろう、キミが

強がるようになったのは

いつからだったかな、キミが

僕の前で泣かなくなったのは


真実を知ったあの日

僕はキミに今までしてきたことを

後悔したんだよ。


『なんでもっと早く…』

いまさら、後悔したって遅い。

もう時間がないのだから。



いま、夕焼け色に染まった太陽が

海に反射して輝いている


幼き日々夕暮れまで2人で

遊んだあの日々をキミに

『覚えてる?』と尋ねる


『覚えてるよ。忘れられない』

眩しい笑顔で僕にそう言った。


『夕陽に照らされたキミが…』

もう僕は言葉を出すことができずに

声を詰まらせてしまったんだ。

泣かないはずだったのに。


『なにさー、泣かないでよ』

そんなしんみりとした空気、私

嫌いだなぁって笑っていうキミ。


僕はキミの元へと駆け寄る。

そして『いつまでも一緒だよ』と

言って同じように水をかける。

『もー、またー?』って怒るキミ。


『ねー、ずっーっと笑っててね』

そうキミは僕に向かって

眩しい笑顔で叫んだんだ。


どうして、そんなこと言うの。

心の準備できていないのに。

キミの、強がりだってことは

気づいているんだよ。


ねぇ、キミは僕に何を望んでる?

喉から言葉に出そうだけど…

出してしまったら現実だと

気づいてしまうから。


だって、言ってしまうと

もう後戻りできないから。


余命宣告を受けたあの日

僕はもっと早く知りたかったって

後悔の涙を流したんだよ。


『なんで、キミなんだ』

どこにぶつけていいかわからない

怒りを胸に夕焼け空を見上げる。


僕の目から涙が溢れ落ちる。

それだけ一緒に過ごしてきた

かけがえのない片割れ。


ポロポロポロポロとまらない

涙は洪水のように目から流れ落ちる。


キミはそんな僕に言う。

『一緒に過ごせて幸せだった』

だからさ、といいピョンと跳ねる。


『私の分まで幸せになってよね』

もう涙はとまらなくなった。

『私の片割れ、運命共同体だよ』

僕の顔を見て言ったんだ。


『サヨナラじゃないよ』

『行ってきますなんだよ』

だからさ、と言って止まった。


いってらっしゃいって

言ってよね、頬を膨らませ

笑顔で僕に語りかけたんだ。


数日後、太陽のようなキミは

笑顔でいってきますと言って

僕から旅立っていった。

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