第9話

ともくんに対して反論したいのに

泣いてしまいそうで、俯いたまま

目をぎゅっと閉じる。


何度も、同じようにして逃げてきた。



わかっている。


わかっている。


同じ事を繰り返しても

何も進まないこと。


状況が良くなることは無いこと。



いっそ、自分自身をさらけ出して

泣きわめくことができたら

どんなに楽なことか。


言ってしまおうか……


なんて考えが頭を過る。


どうしようか、悩んで

どこを見たらいいのか視線がさまよう。


決めかねている、私にともくんは言う。



『あれこれ、考えるな。』



体を引き寄せられ

ともくんの腕の中に収まる。



時刻は深夜なのだろうか。

朝方なのだろうか。


部屋はひんやりとしていて、寒かったが

ともくんの腕の中は体温と鼓動を感じてあたたかい。


なんともいえない感情が押し寄せて

大人しく、身を任せる。


そっと、ともくんの手が私の頭に伸びる。



まだ、子供だった頃…

お母さんやあっくんに抱き締めて

貰っていた時と同じ。


人肌の温もり、胸の鼓動が安心して

抱っこされたまま寝ていたっけ。




お母さん、あっくん…同じなんだな、と思う。



ともくんも家族なんだ、って。

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