第43話

母親は娘に鍵だけを渡して顔を見ること

なく去って行った。




そして、娘である梨絵子も母親に

対して顔を見ることなく立ち去る。




昔から関係の悪かった2人を姉や兄は

複雑な顔をして見ていて立ち去っていく


妹の姿をずっと見つめ続けていた。





『ごめんね、悠妃。朝妃、玖賀の家の

ことよろしくね。ごめんね、ごめんね。』




そう言って、彼女は泣きながらまだ

膨らんでいないお腹をずっと撫でていた。




彼女がある病気と闘いながらまだみぬ

子どもを産もうとしていることは誰も


知らず時間だけが過ぎていった。




本当は母と普通の母娘でいたいだけなのに

それすらも私は許されていない。



昔から母親が大切なのは姉だけ。




愛情を注がれる姉を羨ましがって

いたことを誰も知らなかった。




自分の想いをいつも、閉じ込めてきた。



幼少期から自分の想いなんて

表に出すことがなかった。



苦しくなった梨絵子は、玖賀の家を出た。



自分の意思で、育てていこうって。

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