第62話

『それは、できない』


俺は言う。譲るつもりない。

例え母さんの姉夫妻でも

咲美愛は渡さない。



『裕貴くん、咲美ちゃんは不安定なの。

学校も転校させる予定。ごめんね。

私も譲れないの。お願い。』



どうしてだ。厳しくしたからか?

なんでだ。咲美愛。俺の娘だろ?



のんが泣きながら言う。


『最近のゆうくんは咲美に厳しかった。

咲美も薄々感じてたと思います。

あの子、思いつめてる顔してて。

咲美愛は花が咲くように笑顔に

包まれるために生まれた子です』


『だから…。咲美愛が笑えなきゃ

意味がない。咲美愛がそっちで

笑えるならお願いします。』



『おい!待てよ!のん!』


俺は掴みかかる。なんでだ。

渡すわけにはいかないだろ?



『ゆうくん!あの時わたしたちは

なんて約束した?覚えてないの?』



そう言われて思い出す。



この子が笑顔がなくなったとき

もしも、あっちに行きたいと

言ったとき、素直に生きたい

人生を歩ませてあげようね。


そう、咲美愛が我が家に

やってきたとき寝顔を見つめて

約束したんだった。



クソ、いまになって有効だなんて。



こっちにいたほうが絶対に

幸せになれるのに。どうしてだ。


悔しい、なんでだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る