第16話

1993年4月3日の朝方


裕兄と奥さんの希美ちゃんに

長男が生まれた。


みんなから祝福されて生まれてきた子は

身長 53cm 体重 3545g

大きな男の子だった。



母のもとに孫である赤ちゃんが

顔をみせにやってきた。



『わぁー可愛い。お疲れ様。裕貴、

名前は決めているの?』


と、母は兄に尋ねた。



『母さんが破水してからずっと考えてた。

こんなにも人は願うものなんだって。

反対していた時は、望まれるとか

考えてなかったけど大きくなった時

自分が望まれてなかったら悲しいよね。

だからさ、拓望(たくみ)にするよ』


裕兄は続ける。



『自ら生きていく道を切り拓き

人に望まれ、頼られる子に』



『たくみだよ、母さん』



『たくみ君か、いい名前をつけて

もらったね。大きな男になるんだよ』


母の目には涙が浮かんでいた。



孫を抱いた母はお腹の子に思う。



みんなが貴女のことをまだ

うまれてきてはいけないって

お祈りしているよ。



だから狭いけどまだお腹の中に

いてね。まだ、ダメだよ。




(赤ちゃん、まだ生まれてないのに

叔父さんか叔母さんになったね。)



(つられて生まれちゃダメだよ。)



(まだお腹にいてね。)

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