第82話

「赤ちゃん………産んでも、いいですか?」


梨絵子は、俺に抱き着きながら、言った。



桜が満開の4月の初旬。


肌寒さがまだ残る日だった。



――― ――― ――― ――― ――― ――



「父さんッッ!父さんッッ!!」



妊娠を告げられた日のことを

思い出していたら、気づかなかった。



竜妃から話しかけられていることに。



「なん、なんだ?竜妃。」


「なんだ!じゃないよ!父さんっ!

病院から電話あって、輸血…輸血……

妃響兄、危険な状態だって…………。」



危険な状態…………。



翔平が言っていた、

助からないかもしれない………が、

現実を帯びて、何も考えられなかった。




妃響を失う事が、怖かった。

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