第82話

「ねぇ、朝妃。」



「……愛梨。」



「泣いてる。朝妃の心はずっと優哉さん史哉パパ、梨絵ママに縛られてる。

ね、血の繋がりってそんな重要?

朝妃の父親は史哉パパでしょう?」



「……あの人は、俺の事嫌いだから。

蒼哉は別として、俺にだけは厳しかった。妃響にも厳しかったけど、

竜妃や雅妃達とも違う。俺だけ父親違うから、が、自然の答えでしょ。」



知ってたんじゃないの?出産した時から。



俺が、玖賀史哉に懐かなくて

永城優哉に懐いていたこと。

自分の子どもじゃないかも…って心の中で思いながら育てられたんだろ?って。



その疑問、辛さをずっと胸に抱えてる。



玖賀と縁を切ればいいのに中途半端にして、妃響のサポート役についた。

それなりの役職についてるから子どもの教育費、生活費はなんとかなってるけど

四つ子が大学受験、妃恋も大学受験となると、もっと頑張らないとって思う。



愛梨には極力、無理をさせたくない。





―――……あんな思い、二度としたくない。




「朝妃、朝妃、大丈夫、大丈夫だから。

私は元気にここに居るよ?ね?

決めたでしょう?話し合って。

朝妃のせいではないの。双子授かったのも奇跡で、私が妊娠しやすい体質なの。

私は朝妃から離れないから、安心して。」




末っ子の三つ子が生まれた時、

愛梨は出血多量で心肺停止状態に一時陥った。

医者からは「最悪の状態も覚悟してください、奥さんかお子さんを―――…」

選んでくださいとも言われていた。



そんなの、選べるわけない……。



愛梨が大好きだ。愛してる。

だからこそ、愛梨との子どもは嬉しい。

それを、選ぶなんて…俺にはできなくて、祈った。願った。



それが、8年前の出来事。



それ以来、愛梨に無理をさせたくなくて短時間のパートをしつつ、子育てをしてもらっている。

本当は仕事もしなくていいけど、「気分転換もほしいなぁ。」と言われ、渋々働く事を許可している。



俺の給料だけで生活できるくらいは稼いでいるから、愛梨には身体を休めて欲しい。



18歳の時から妊娠・出産しているから…




話、逸れたな―――…。





どうしても、現実を受け止められない。





あの日、自分の出生の日を知った日と同じ感覚が自分の中である。





あの頃は、どうしようもできなくて荒れ狂う俺を妃響と実の父親が受け止めてくれた。当時、高校生だった俺…




今は、違う。




八人の子の父親だ。





あの頃とは、状況が違う。

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