第80話

side 朝妃



「ただいま。」



今日も疲れたなあ…と思いつつ、自宅へと帰る。今日は居るだろうか?




「おかえりなさい、朝妃、お疲れ様。」



「おお、愛梨、ただいま。」



いくつになっても可愛い。

大好きで、大好きで堪らない奥さん。



元々は幼なじみ…小学校の同級生で俺と愛梨は中学受験で学校が別れたけど

それでも忘れられなくて小学校卒業した日に好きだって言って付き合い始めた。



かれこれ20年以上の付き合いになる。



「妃愛、いるわよ?

でも、パパとは話したくないって。」



「話したくないも、俺は父親だ。

妃愛の将来に関わることだから話す。

部屋に居るのか?」



「朝妃、落ち着いて?ね?

ここで無理に話しても、朝妃と同じこと繰り返すだけよ?それでいいの?

妃愛は貴方に似てるの。同じ行動とるわよ?」




―――………それは、嫌だ。




と、頭を抱える。どうしたらいいんだ。




奥さんにしか相談できないが、

奥さんはほとんど妃愛の味方だ。

まだ17歳…これから、大学入って…青春してって思って、教育費も貯めてきた。




―――…妊娠4ヶ月と告げられたのが先月のこと。




頭が真っ白になった。


え?俺と愛梨の子どもではなくて、妃愛が?まだ高校生だよな?って思った。

俺は断固反対。

でも、奥さんは妃愛と光妃、妃来、妃菜梨の四つ子を18歳で出産してる。



俺が、妊娠させたんだ。



と、当時は喜びよりも「ごめん…」という言葉しか出てこなくて申し訳無かった。

愛梨はそんな俺に「喜んでよ、パパでしょ?朝妃と違うわよ。あなたの子よ。」と荒んでいた俺の心に灯りを照らしてくれた。


当時の俺は実の父親が末期ガンで余命わずかな状態、

育ての父親との関係は悪く、

母親との関係も出生のことを知ってからは溝ができて、避けてしまっている。



俺も父親なのに、18年以上だ。



孫の存在を父親にも母親にも兄弟にも伝えてない俺は、親不孝者なのだろうか?

だから、この展開になってしまったのか?―――……わからない。



四つ子の妊娠を知った時、愛梨の親は

俺を咎めることはしなかった。

むしろ、事情を知っていたからか半同棲状態から収入が安定するまでの数年間

俺は愛梨の実家で四つ子と妃恋の子育てをしてきた。



仕事をセーブして。




妃愛は俺と愛梨と同じような人生を歩んでいってる―――…。

それは、親子だから同じ道を歩むのはわかる…が、俺は学生生活を楽しんでほしかった。

子育てに縛られずに、妃愛の人生を生きて欲しかった。



四つ子の二番目、長女として生まれ

三姉妹の中では泣き虫だけどしっかり者で、優しくて、成績も良かった。



だから、大学入学して…これから、なのに―――……。




揺れ動く気持ちが仕事にも現れてて、最近はミスが続いてる。




父親にも怒られたしな。

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