第65話

「史哉さん、もうすぐ着きます。」



運転席から話しかけられるが、「ああ」しか返事ができない。



俺を連れてきたかった場所って聞かされたけど、行きたい場所なんてない。



優哉も妻も娘も居ない。俺が死なせてしまったようなもの―――……

光のない世界に俺は立ち止まっている。




山しかない場所に行きたい場所なんてない。





止まらない涙が現実だと痛感する。





「まあ、着いてきてくださいよ。

拒否しても無理やり降ろしますから。」



「………蒼哉達だけで行けよ。

俺は車に乗ってるから。」



「ダメです。行きますよ。」




娘が居ないのに楽しいことなんてひとつもない。




こうして誰かが連れ出さないと俺は家から出ないけど、出たくないんだ。





娘の意識は戻らないのに、俺は違う世界に居ることが。






傍に居たい―――……






妃愛に「パパ」って呼んで欲しい。

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