第53話

「妃愛、泣いて…たんだよね。泣いてた…。色んなことが不安で、ついキツく言ったら…ごめん。」




家に帰った俺に息子達は謝ってきた。



「お前たちのせいではない。俺が…向き合えなかったのが悪いんだ。」としか言えなかった。




息子達は悪くない。




長男と次男、三男は妻が妊娠したことを電話で聞いて知ってたみたいだし、

悪阻が重かったことや、切迫流産、早産で長く入院していたこと。



生まれても長くは生きれないかも、と宣告されていたことを妻から聞かされていた。




だから、妻亡き今は、妹が心配で大切でうるさく言いたくなる気持ちも分かる。





母親を亡くした娘のフォローを俺がしないといけないのに―――……。





俺は、何ができていたのだろうか?





何か言いたそうにして我慢する娘は何を言いたいのだろうか……。






チラリと耳にしていた娘の進学先。





かつて住んでいた町の大学の資料を取り寄せているのを見た。







―――……出ていくのか?玖賀を。








怖くて聞けなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る