第32話

「賢人くんと結妃姉は幼なじみで。

賢人くんの弟、朝妃の同級生に陽斗ってヤツが居たんだ。」



「ん、なんとなく聞いたことある。話してるの……聞いちゃった……。」




わたしがそう言うと、優しい笑みを浮かべて頭をポンって撫でてくれるお兄ちゃん。



……ん?




「陽斗は海で行方不明になった。今も見つかってねえんだ。

水難事故……俺と朝妃達、賢人くん、結妃姉とかで遊んでてさあ……居なくなっちまったんだ。」



「えっ……。」



「だから……かな。

妃愛がひとりで海行ってたの知ってたけど、優哉くんとの思い出に割り込めない……。でも、妃愛には海で死んでほしくなかった。

見つかる保証ねえから……うるさく怒鳴ってごめん。ひとりでは行かせたくない。」




………え?




「何処に行く」「連絡しろ」「おい、門限守れ」「既読無視か、いい度胸だな。」

ってLINEをお兄ちゃん達三人から、頻繁に送られてきてた。



うるさくて、いつも無視してた。





「いつか……妃愛の大好きな海で、

妃愛は居なくなるかもしれないって思う日が増えたんだよ。

そう思ったら怖くて。うるさく言ってきた。ごめんな……ウザかっただろ?」



「ただの……高校生だから道を踏み外すな……じゃなかったの?」



「ん、それもある……けど。

いつか消えそう……って雰囲気があったんだよ。妃愛がひとりで墓参り行くって言い始めたあたりから……な。

ああ、このチビは居なくなる気なんだなって。」




居なくなる……気では居た。




今も思ってる。玖賀から出ないと……って。





「俺は、手放す気はねえよ?妃愛。

玖賀から出ていくことは認めねえ。

嫌だって言っても認めない。妃愛の帰る家は玖賀だ。」



「……横暴な。一歩間違えればモラハラとかに近いよ?妃響兄の行動。」

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