第29話

「親父はダメだな。妃愛にこんなカオされるようじゃまだまだダメだな。」




え?




「大切に育てようとしたら、妃愛は逃げていく……。この10年そうだったな。

ごめんな、辛い思いをさせてたのは親父と俺たちだよな。」



「……なんのこと?」




ちがう。



パパもお兄ちゃん達も良くしてくれた。



わたしが玖賀に馴染めるように努力してくれてたの、わかってる。

お兄ちゃん達のせいじゃないの……わたしが馴染めなかっただけで……

優くん達との思い出を消したく無かっただけなの……ちがうんだ。




「4年……たった4年……だから妃愛は玖賀で暮らしていけると思ってた。

妃愛。おまえはひとりで抱えすぎだ。

ママの病気は妃愛のせいじゃない。

妃愛をひとりで育てたから死期が早まったってことはないの。」



「……。」



「自分を責めなくていい。

余所者だから玖賀を出る必要もない。

妃愛は玖賀の娘。ひとりで生きていこうとなんて、するなよ?」





どうして。




お兄ちゃん……は、わたしをはじめから受け入れてくれたの?

ママとオマケが戻ってきたのに……どうして?




その秘密はわたしには教える気がないんだと思う。

お姉ちゃんの死の原因がそこに関係している気がするんだ。




パパもお兄ちゃんも無理やりお墓参りに連れていこうとはしない。

お留守番が多かった。

連れてってくれた時もあったけど、玖賀家のお墓じゃないところで。

よくわかってない。





「妃愛、お姉ちゃんのとこ行ってみるか?」




「ん?お姉ちゃん……?え?玖賀家のお家の近くにあるじゃん?ちがうの?」




「んーん。結妃ゆい姉のとこ。

妃愛に背負えって言いたい訳では無い。

結妃姉のことで苦しんでる妃愛をみると俺は我慢できねえんだ。」





お姉ちゃん……。




パパも叔父さん、叔母さんもお兄ちゃん達も、わたしにお姉ちゃんのことは話さない。




病気と生まれて間もなく亡くなったお姉ちゃんのことは教えてくれたけど

結妃姉ちゃんのことだけは誰も教えてくれなかったんだ。





聞いてはいけない空気があった気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る