第19話

「妃愛、思い出は消さなくていい。

…………けど、パパとも海行って欲しい。パパ、妃愛と海に行きたい。」




パパは、わたしに海行こうって幼い頃は言ってきてくれた。

ここ数年は、家族で海に行くことも少なくなって家から近いのに、

玖賀家の話題から海が消えていた。



わたしのせいかな……って思ってからは、より一層、ひとりで海に行くようになった。



わたしが居るから……パパにもお兄ちゃんにも遠慮させてる……って思ったら

「ママ、馴染めなくてごめんなさい。」って言いたくなって、海で泣いた。




引き取ってもらって、ワガママなんて言える立場ではないのに、

わたしが玖賀家を壊してる……

そう思ったら全てが怖くて、壁を作るしか無かった。





「…………。」




何も言わないわたしを見て、

パパがわたしと同じ目線に合わせて抱きしめてくれた。




「消さなくていい。思い出を。

持ち込んではいけないなんて思ってない。妃愛が優哉と過ごした時間は消していいものではないよね?」



「うん。」



「いいんだよ。妃愛。もっとワガママ言っていいんだよ。

思い出も忘れろなんて言わない。」




はじめてだった。




パパから優くんの話題が出たの。



この10年はお互いに優くんと美咲ちゃんの話題を避けてきた。

パパは優くんのこと話したそう、聞き出そうにしてくれていたけど、わたしが拒絶し続けた。



わたしの中の玖賀家でのルールが壊れそうで、怖かった。

だから……優くんには申し訳ないけどわたしの思い出に閉まったんだ。

誰にも言わない……思い出に……。




「パパ、優哉と美咲ちゃん、ママの話抜きでは妃愛と向き合えないと思ってる。

お互いなあなあにして、避けてきたけどそれはダメだと思うんだ。」



「うん……。」




頭ではわかっている。




わたしの中には優くんとの思い出があって

パパの中には優哉の娘として育ってきたわたしが存在している。



わたしが優くんの話題を拒絶し続けるかぎり……パパとは父娘になれないこともわかっていた。





今さら……無理だって……怖い。

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