第17話

「妃愛っ!待て!」



わたしの手を掴むパパの手を振り切る。



放っておいてほしい。

無理して心配して、探さなくていいし、わたしの帰りを待たなくったっていい。

追い出される前に出ていくから、その時までは―――……


「どうして、妃愛は……パパを頼ってくれない?学校のこと、勉強のこと、話してくれない?」

立ち去ろうとしたわたしに聴こえてきたパパの弱々しい声。



ママのことで泣くパパは見てきたけどわたしのことで……こんな……パパを見るのははじめてだった。




思わず足が止まる。




「う、み……行ってたのか?」




遠慮がちに聞いてくるパパは今にも泣きそうで。苦しそうに見える。

なんで?パパ、そんなに苦しそうなの?



苦しいのは、わたしだよ……って言えないのはパパの目に光る涙が見えたから…

どうして?どうしてパパが泣くの?




「………………。」



「妃愛は海好きか?」



「うん、好き。」




海難事故で優くんと美咲ちゃんは亡くなったけど、ママと四人で過ごした思い出の海は嫌いになれなかった。



この先も嫌いになることはない。




大切な思い出が詰まった海だから……

わたしは、大好きなんだ。海が好き。

心が一番落ち着ける場所。





「……優哉の墓参り一緒に行こう。」




「……ううん、大丈夫。行かない。」





わたしひとりで行ってきた。




反対するパパとお兄ちゃん、叔父さん、叔母さんを無視して。

小学校高学年からひとりで優くんと美咲ちゃんのお墓参りに行ってるんだ。




誰にも邪魔されたくないから。






毎年、夏。





それ以外、わたしは優くんの話題を出さない。

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