第9話
「妃愛っ!見えるかっ?
ここになっ、優くんの弟住んでるんだっ!
妃愛のパパが居るんだぞっ?」
「いややっ、優くんがパパでいいのっ。
パパなんか要らないのっ……」
嫌な予感がしていたんだ。
優くんが居なくなってしまう気配があって、怖くて、優くんにしがみついて泣いた。
フェリーの中でわたしはずっと優くんにベッタリだったんだ。
「ここの景色……見たな……。
船の中から見た景色だ……。近くで見るとこんな感じなんだな〜。」
中学に入学してから深夜外出をしてきた。
記憶を手繰り寄せながらフェリーの中から見た景色を辿っている。
事故は辛かったけど、景色は綺麗だったんだ。
優くんもわたしに見せたがって船の中をふたりで何周も歩いた。
写真も動画もいっぱい撮った。
優くんのスマホはわたしが形見として持っているけど開けてない。
データのバックアップを取ったけど何もせずしまったままになっている。
***
「優くん…………ママ……。」
家族に会いたくて。
深夜外出するようになった。
最初は1週間に1回、2回、3回と増えていまは毎日のように出かけている。
忘れていた記憶が景色を見て思い出せるようになって、また同じ景色を見たくなって海に来る。
パパとかお兄ちゃんは誰かと遊んでるって思ってるんだろうけど、
そんなこと一緒にできる相手はいない。
胸の中に留めてきたんだから。
もうひとつの家族のこと。
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