第10話


「おい起きろ、帰るぞ。」


「ん、…まま、いま何時?」


「ママじゃねぇわ、もう23時すぎてる。」


「え" ‼︎ うそ⁉︎ 早く帰らなきゃ‼︎ 」


「親は?」


「それは大丈夫、仕事だから…」




着替えを済ませ家の方へ向かう途中、対岸に

長嶺家の庭が小さく見える。

満月に照らされ、菜の花が光る庭につい足を止めてしまった。



「どした?」


「綺麗、」


「─…菜の花、こっから見えるんだな。

なぁ知ってるか?あれ、お前が生まれた日に名前を聞いた詩楽うたが植えさせたんだ、小さくて可愛い笑菜みたいだって。」



「そうなんだ…、知らなかった。

ねぇ、4歳くらいの時に桜都おとの家でホームパーティしたの覚えてる?」


「ああ、」


「あの日、真夜中に詩楽と家を抜け出してね、

菜の花が咲く庭でプロポーズされたの。今日みたいな満月の日。

私、意味も分からずウンって答えて、だから…」



「……それって」


「ん?」


「いや、何でもない。」





家に着いたのは午前0時を少しまわったところで、住宅街は夜の静けさに包まれていた。



「桜都、今日の人達、

詩楽は本当に大丈夫なの?」


「ああ、心配ないから早く家入れ。」


「うん、じゃあね。おやすみ…」



玄関先で分かれると、急いで階段を駆け上がり

部屋の窓から見える後ろ姿が暗闇に消えてしまうまで眺めた。

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