第64話

「痛い痛い痛いッッ……史哉くん……」



菜緒の時は、必死に声を押し殺した。


陣痛に耐えて、耐えて。

気を失いながら、出産した。



今回は、史哉くんが居る。



「呼吸法。呼吸法…忘れてる。

梨絵ちゃん、ここに居るから、ここに居る。安心して。1人じゃないから。

もっと、頼っていいよ。」


「うんっ、うんっ………」



頼った。全力で甘えた。


史哉くんの両手に、ヒビが入るくらい

手を握ったし

肩にも手を回して、陣痛を耐えた。



中々、赤ちゃんはうまれなかった。



" 今日中に生まれなかったら、

帝王切開に切り替えましょう。 "



先生と助産師さんと、決めた。




陣痛から、40時間―――……



「史哉くんッッ……もう、むりい……

手、手が……真っ赤……お仕事はっ?ダメだよッッ……」


「梨絵ちゃんが頑張ってるのに、

仕事なんかしてられるか。

菜緒は、立ち会えなかった。実質、はじめての子供だ。出産を見届ける。」



優哉くんも、40時間以上、

待合室で、待機していてくれた。



「あーっ、無理無理無理っ!

もういいっ!帝王切開にしてっ!」



「下がってきてるから。

頑張ろう。梨絵ちゃん頑張ろう。」

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