第10話

side 莉音



お父さんが危篤―――………


いずれ、訪れることだとは、わかっていた。

僕と詩音が進級する頃までは、生きられないこと。

死期が、早まる可能性があったこと。



受け入れたくなくて、逃げた。



「………ひい、にい………。」



悠妃のお兄ちゃんの、妃響さん。


僕は、悠妃と幼なじみだから、兄弟のように育ってきた。

保育園のお迎えも、ひいにいが来てくれたこともある。

お兄ちゃんではないけど、ほとんどお兄ちゃんのようなもの。大好きな妃響お兄ちゃん。



「んー、どうしたの?莉音。」



車を運転中だから、

顔を見て話せないけど、聞きたいんだ。



「……おとうさん……待ってる……かな……。」


「待ってるよ。雅人さんは待ってる。

莉音が一番、わかっていると思うよ。

莉音にお別れの挨拶をしないで、先に逝くことはないんじゃないかな。」


「………うんっ……うんっ………。」



おとうさん―――……待ってて。



僕を、待ってて。お別れ……するから。

まだ、死なないで。生きていてほしい………。

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