第16話 ソムリエとは恐れ入った【配信回】

 距離はそうあるわけでも無かったので、11時頃には石垣に到着することができた。よく見ると人の足跡が残っていて、今回は軍が先に入ったことが伺えた。


「良くないですね……」

「中佐ー、どうでしたー?」

「雨が来ます。多少急がせてもダンジョンの中に入ってしまいましょう。先頭は私が」

「了解です。あと一踏ん張りだ。悪いが、急いでくれ!」

「は、はい!」


 遠く空から雲を眺めていた中佐が、すぐ降りてきて指示を出した。山の天気は変わりやすい。秋口ともなれば特に。

 古くは塹壕のような用途の穴だったのだろうか。ぽっかりと石垣の途中に空いた入り口に、最低限の警戒をしつつ全員入った。


 さほど時間も過ぎずポツポツと雨が降り、次第に本降りとなった。駅弁のように紐を引っ張ると温まる弁当を食べ休息をとり、早速ダンジョンに彼らは挑む事にした。


「今回はドローン無しですか、和崇さん?」

「広いからな。背負っては来ちゃいるが、電池や電波がもたん。必要に応じて使おう」

「濡れないで良かったですね。先輩」

「まったくだ。耐水加工とは言え、天敵だからな」

「配信も許可します。ですが、私語は控えめに」


 カバンに付いたライトが広い通路を照らす中、彼ら配信者たちはダンジョン奥地を目指して、配列は先頭から、中佐、メイジー、雪馬、和崇の順に歩き出した。

 

【ユキメちゃんこんちゃ〜】

【切り抜きすごい反響あったよ〜】

【メイジーちゃんもこんちゃ〜】

【ガチ戦術家も唸ってたぜ、プライドの高い妖魔には、あの手は有効だって】


「皆さんこんちゃ〜です。今日は予定通り、スガタニ城跡にて配信しています」

「こんちゃ〜今回から、よろしくね」

「ごきげんよう。毒を持っている妖魔も多いので、やるなら見極めてからですね。ドラゴニュートなら大概問題ありませんが」


【お、おう……】

【ソムリエとは恐れ入った】

【このコメントはセンシティブな内容を含んでいる可能性があります】


「…………む」


 大きな部屋を抜け、直角に曲がった通路の向こう。カタカタカタと何か固い物が転がるような音が響いた。


「ワイトかスケさんかな?」

「メイジーさんは弾薬の節約を、私と和崇で前を相手します」

「了解!」


 直角の通路を身体を折りたたみ前転しながら、折れた刀を装備した人骨スケルトンが4体現れた。身の軽い彼らの回転速度は早い。


「ふぅん!!」


 中佐は瞬時に翼を大きく広げると、多少強引に通路いっぱいに突撃した。4体すべて反撃され、勢いを殺されたスケルトンたちは、バラバラになってもがき始めた。


「踏んで壊せぇ!!」

「ごめんなさい! ご先祖様!!」

「よいしょぉおおお!!」


 和崇は飛び上がって思い切り骨を踏みつけ、コンバット・アックスと、アクリル・シールドで砕いた。

 メイジーと雪馬も足元でカタカタ動くスケルトンを容赦なく砕いていく。


【なんまんだぶ、なんまんだぶ】

【アーメン】

【アテー、マルクト、ヴェ・ケプラー、ヴェ・ゲドゥラー、……アーメン】

【ご先祖様て謝りながら砕く娘はじめて見たわw】

【前転するスケルトンとか、珍しいなw】

【やけに動きの良いスケルトンだったな……?】

【このコメントはセンシティブな内容を含んでいる可能性があります】

【このコメントはセンシティブな内容を含んでいる可能性があります】

【俺も……いや何でも無いです】


「いけない。魔法が来ます!!」


 直角に曲がった通路の更に奥、パンパンと爆竹が弾けるような音が響く。バジッと強めに弾けた音と共に、紫電が壁を伝って雪馬に向かって襲いかかってきた。


「きゃあぁああ!?」

「ぐぅっ……!?」


 和崇が咄嗟に割って入り、アクリル・シールドで受けたが、通路の後方に弾き飛ばされてしまった。

 中佐もすぐに翼を広げたが紫電による攻撃は、上手く壁を伝ってかいくぐられてしまった。


「壁を使うとは、味なマネを……!」

「任せて!」


 メイジーは大きく横に移動して、腰だめに拳銃を構えた。一呼吸もせずスマホが碧く輝き、引き金を引いた。


【おぉ! ユニークスキルだ!?】

【どんなだ!?】


 放たれた弾丸は壁に跳弾して通路の奥に向かい、硝子が砕けるような音が響いた。

 何度も響いていた空気が破裂するような音は、何かが砕ける音と共に停止した。


「今!」

「うぉおおおおお!!」


 中佐は壁を蹴り、そのままの勢いでボロ布めがけて斬りつけ、続く和崇はボロ布を何度も踏みつけた。


 ボロ布のようなローブから転がり出たのは、ガイコツ。ワイトだった。手には装飾が砕けた杖を持っていて、周囲には硝子が砕けたような赤い半透明の欠片が散乱していた。


「察するに、絶対命中のユニークスキルか?」

「うん、あたしの初弾は、何者も逃しはしないんよ」


 ユニークスキル「ワンショット・キル」

 初弾のみ、跳弾などを含めての絶対命中の効果を付与する。

 このユニークスキルは矢避けの効果を貫通する。

 自身が扱う拳銃類のみ、全弾装填済み、両足が浮いて居ないことが発動条件。


【渋い戦い方だったなこのワイト】

【このコメントはセンシティブな内容を含んでいる可能性があります】

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【昔はカードゲームで愛嬌のあるキャラだったのに、これだもんなw】

【名うての魔術師だったのかもな】

【まさしく兵どもが、か】

【あの魔法……再現可能なのか?】

【このコメントはセンシティブな内容を含んでいる可能性があります】


「すみません。少し……」


 中佐が控えめに配信ドローンのカメラへ向けてあげた。


「こちらからあのような作戦をして、気を持たせてしまった上で申し訳ないのですが……」

「先ほどから、センシティブな警告文が多く散見されます。作戦として有効ならともかく、骨をしゃぶる犬のような真似事は私の趣味ではありせんので、期待に添えず申し訳ありませんが、平にご容赦を」


 中佐が軽く頭を下げると、多めに出ていた警告文は目に見えて少なくなって行った。


「その代わりと言ってはなんですが、要望の多かったエー、エス、エム、アール? とか言う主に耳かきのイベントを企画していますので、お楽しみに?」


【さっすが中佐ぁ! 話が】

【すまん】

【おい、よせ。中等部の前だぞ】

【そだな。その言葉はよした方が良い。サービス満点で素晴らしいです中佐】


「……何か?」

「紳士は口にしないスラングだっただけさ。なあ?」


【おう!】

【もちろんだ!】

【いい子はマネするなってやつだな!】

【それ、最近聞かないし、悪い子ほど真似すんなだよなぁ……】

【ごもっとも】


 雪馬のスマホ画面を見せてもらい、和崇は視聴者に問いかけた。その日の配信ではいつの間にか、センシティブな警告文をあまり見かける事は無くなっていた。

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