第17話 お前はもう死んでいるのに(1)【配信回】

 錠前をいじり、何度かロックピックを回して、和崇は木箱を開けた。


「ふむ、大判小判がザックザクとは行きませんか」


 木箱の中には淡く光が脈打つ不気味な石が数個、古い脇差。和製の篭手が入っていた。


「いつも思うんですけど、誰が入れてるんでしょうね……?」

「さあね。案外迷い人みたいに、流れて来てるのかもね」

「最有力の説ではありますね。……これで推定。おおよそは回り終えてしまいましたか」


 10階層。大型ダンジョンとしてはもっと深い階層も存在するが、現在最奥として聖域があり、ベンテンガタ・ダンジョンと繋がりが判明しているのは、ここまでの階層だった。


「曽我……」

「軍の方は、なんと?」

「人間と思われる足跡が外に出ているのは、いくつか確認できましたが、関連するかどうかは……」


 迷い人が出ていったり、そもそも不法滞在者の足跡の可能性もある。疲労もそれなりに蓄積している。聖域の結果次第では、彼の探索は軍に任せ、打ち切るしかないと和崇は考えていた。


「聖域に、行きましょう」

「メイジー、……いいのか?」

「ダンジョンに挑んでるもの。覚悟はあります」

「んっ……よし。では聖域まで、ドローンによる偵察を行いましょう」

「使い時ですね。承知しました、中佐」

「ユキメさん、例の件をここで試したいと思います。お願いします」

「了解です。では配信開始しますね」


【おひさー】

【うお、映像の解像度がいつもと違う?】


「どうも、今回は偵察するドローンのカメラ映像を配信と同期して、視聴者様にも視えるようにしてみました。気が付いた事があったら、どうぞお気軽に書き込んでみて下さい」


【斥候兵ね了解】

【なるほど。こりゃいいアイディアだ】

【穴が空くほど見ちゃるぜ】

【精密録画に切り替える。少しまってくれ】


「会話は私のスマホからになります。よろしくお願いします。皆さん!」


【任せろユキメちゃん!】

【よし、準備できた。始めてくれ】


「…………飛び石無し、スタート」


【すっごーい! 飛んでるー!】

【ハハッ、こりゃいいや】

【サラマンダー! よか早くは流石にねーや、うん】


 土埃をあげてマビックドローンは広い廊下を飛行していく。あっという間にベンテンガタ・ダンジョンのような、地下へ続く階段を発見し、降りていった。


「居ました。バルキースケルトン……一体だけです」


 6メートルほどはあるだろうか。分厚い骨を何重にも重ねた身体を持つスケルトンが、一体だけ聖域を徘徊していた。

 戦国武者のように、まるで鎧を着ているような姿形で、譲り合いな長さの刀を持っていた。

 和崇は地面に静かにマビックドローンを着陸させ、カメラだけでしばらく様子を見た。

 バルキースケルトンは、何かを探しているように、周囲の瓦礫をゴソゴソとかき分けていた。


【聖域、城みたいな場所だな……】

【なに探してんだ、ありゃ?】

【さあ……?】

【神官技能を持つ者だが、一瞬影がブレて見えた。何か仕掛けがあるかもしれん】


「罠かな。ユキメ、何か見えるか?」

「んん……?」


 雪馬は良く目を凝らしてスマホを覗いて見た。一瞬何故か頭がクラッとした気がして、バルキースケルトンの影がやはりブレて見えた。


「影がブレて見えましたね……?」

「そうか。C+程度のバルキースケルトンが、奥に1体ってのもキナ臭いしな」

「聖水を使おうか。あたしは虎の子の銀弾で」

「炭素素材なら幽霊にも効くが、念押しするか」

「私は遠慮しましょう。この子。聖水大っきらいなので」


 中佐のロング・ソードを除いて、聖別された水で武器を清め、彼らは通路を進み階段を慎重に降りて

聖域へと踏み込んだ。


 聖域は崩れた城郭のようだった。天井はどこまでも高く、澄んだ小さな池が見える。


 バルキースケルトンは彼らが踏み入った瞬間、体制を低くして、何か紐のついた丸い物を投げつけてきた。


「あれは!?」

「手榴弾!?」


 和崇がそう叫んだのも無理はなかった。丸く固めた土を合わせ、十字に火縄を巻き、敵に投げつける爆弾。焙烙火矢または焙烙玉と呼ばれる戦国時代の武器だった。


「こういうのは慌てず、そっ……れぇ!」


【うぉおおおお蹴り返した!?】

【なんつー胆力……】

【ナイスキック!】

【あんな古いもんどっからwww】


 中佐が蹴り返した焙烙玉は、バルキースケルトンに切り裂かれて真っ二つにになり爆発四散した。

 ここに、戦いの火蓋は切って落とされた。

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