第3話 タグ付け通りとは恐れ入った【配信お別れ回】

 指輪の文字は、先に手を洗うだけで薄くなった。雪馬は中佐にからかわれたと思い憤慨したが、そちらが取り違えて、私は言わなかっただけと軽くあしらわれてしまった。


 軍と共に探索を行ったが、たった一人囮になった曽我の行方は分からなかった。彼らはどうにかベンテンガタ・ダンジョンから帰還し、ダンジョン隣の軍事基地内で、配信活動終了の挨拶をしていた。


「この基地な。昔は小学校だったんだよ」


【あっ(察し)】

【覆面くんにも、悲しき過去……】


「通ってたんですか、和崇さん?」

「いいや、だが小さい頃に、母親に連れられて、あの湖モドキで白鳥にしょっちゅうパンの耳あげてたんだ」


【いや違うんかーい】

【…………そっか】

【マジレスすると消化できないから、大型鳥類にパン耳は駄目だぞ(⁠。⁠•̀⁠ᴗ⁠-⁠)⁠✧】


「ハクチョウって、なんですか?」

「なになに、食べもん?」


 雪馬とメイジーが何気なく言った問いかけは、コメント欄の勢いを一瞬だけ完全停止させ、和崇や中佐もつい、ギシリと身を固めてしまった。


【あぁ……】

【いっぱい居たよな。昔は】

【朱鷺よかマシ、つってもなぁ……】

【きれいで大きな白い鳥だよ。……だったんだよ】


「…………飛んで来ますよ。きっと。なにせこの地には、ドラゴンまで飛んできたのですから」


【中佐……】

【中佐さん】

【すまん。少し泣く】


「あははっ、そうですね、中佐。2ヶ月もすれば雪降りますもんね」

「よくわかんないけど、飛んで来るならまた見に来ようよ、みんなで。きれいな鳥なんでしょ!?」

「ええ、是非また見に来ましょう。約束ですよ?」


【おれ、この配信絶対に2ヶ月は見るわ】

【俺も、白鳥見たことないもん】

【来るといいな。また】

【来るさ。俺たちがそう、望むなら】


 次に挑むダンジョンは行方不明の曽我の探索も含め、ベンテンガタ・ダンジョンと繋がっている大型ダンジョン。スガタニ城跡を予定していると視聴者に伝え、配信は終了した。


「うわっ、切り抜き動画のタグ、すっごいことになってる……」


 メイジーが自分の少しデコレーションされたスマホをタップして、少し気まずそうな声をあげた。


「もうできてんのか、早いな?」

「どれどれ……?」


 中佐が大きめの業務用タブレットを操作して、自分の切り抜きを見た。その場に居た他の3人も覗き込む。

 タグには主に、


 エロい(確信)

 全年齢制が、ただ一人だけ認め続ける女。

 Dチャンネル運営が敗北を認めた実例。

 数多の動画運営会社が、たった一人恐れる女。

 妖モノ(ガチ)

 運営は右手が忙しい。

 世界中のSランク妖魔たちが、ただ一人恐れる女。

 歩く放送事故(妖)

 絶対に戦場で敵対したくない女。

 説明不要。

 例のアレ。

 実用性抜群。

 妖魔を舐めるベテラン剣士。

 我々の業界ではご褒美です。

 歩く17.99禁。

 やらしいことをやることしか考えてない女。

 天使、たまにエロ天使。


 このような書き込みやコメントで、溢れかえっていた。


「まぁ……失礼ですね。私は作戦通り戦っただけですのに」

「ハ……ハハ……」


 雪馬とメイジーは中佐の反応に対して、引きつった笑い声を上げるしかなかった。

 付き合いの長い和崇だけは、呆れたように言葉を選んだ。


「あそこまでやれって誰も言ってないでしょーよ。中佐」

「天使とかも書かれてるじゃないですか。そこまで言うなら、あなたの切り抜きも見てみましょうか」

「ちょっ、やめ!?」


 和崇は急いで中佐からタブレットを取り上げようとしたが、彼女は軽やかに避けてしまった。

 心底面白そうに、彼女は和崇の切り抜き動画のタグを、口に出して読み始めた。


「現実でトレーナーバトル始める男。エンタメで味方を鼓舞し、エンタメで勝利する男。エンタメでダンジョン攻略した男。迷シーンにして名シーン。かっとびんぐスギィ!! かっとばしスギィ!! 俺ら。たぶんハーレムの食われる方。楽しい事をやることしか考えてない男。だそうですよ?」


「エンタメが青春で、エンタメが戦い方で、エンタメで勝利して何が悪いってんですか?」

「開き直りやがったよ、この先輩……」

「ん? 先輩? なんの事だメイジー?」

「あ、私の配属先予定、ダンジョン課なのでよろしくお願いします」

「ああ、そういう事か、じゃあよろしくだな」


「あはは……ち、ちなみに私は?」

「えっとな……そのままの君でいて、間違いなく苦労人。癒し。最後の良心。最終防壁。解呪方法求む。どうしてこうなった。あの二人と続けるってマ? 真の天使。珍獣担当のおねえさん。健全の擬人化(相対的な意味で)だってよ」


 和崇から読み上げられて、雪馬は曖昧な笑みを浮かべた。少し彼女は照れていたように和崇は感じた。


「そういえは3人は、どう言う集まりなんさ? なしてダンジョンに挑んでたんです?」


 メイジーの素朴な疑問に3人は顔を見合わせた。ダンジョン内で救助されたメイジーには、思い至らなくても無理はないだろう。

 地方公務員保険所ダンジョン課所属の山際和崇。

 ヨコドイ村役場。ダンジョン対応課所属の中佐。

 キザキ中等学院所属。配信活動者の宮足雪馬。


 一見して年齢も所属も共通しない3人が、なぜチームを組みダンジョン攻略の配信活動をしていたのか、メイジーは経緯が気になった。


「えっとそれはですね……」


 雪馬は説明を始めた。事の発端は五日前、ゴロゴロ山ダンジョン内で、雪馬と和崇が出会った時に遡る。





☆☆☆★★★☆☆☆★★★




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