第2話 若者の人間技離れ 【配信回】
飛び上がったブラックスワルトは苛立っていた。速度も、旋回能力も、上昇能力も、彼の方が圧倒的に上。向こうは無様に邪魔な四肢までぶら下げている。だというのに、先ほどからまったく小さな影にすら追いつけない。
身体能力。スペックでは圧倒している。困惑、焦り、嫌悪、激怒、理解不能な感情の発露がない混ざり、雨あられとスキル、風圧、咆哮で攻め立てるが、ひらひら木の葉のように宙を舞う中佐には、攻撃はまったくかすりもしていなかった。
「だってあなた。空を少しも怖がってないもの」
図星を突かれたようにピタリとブラックスワルトが止まった。叫ぶことすら止め、まるで、怒りの沸点がプツッとキレたように反応した。
「これなら和崇を背負って、彼の指示だけで飛んだ方が遥かにマシ。まるで勝負にもなりません。空がとっても可哀想ですね」
地上の陥没地点から灼熱の気配。同時に中佐の一言で、怒りすぎて冷徹に思考を固めたブラックスワルトも、同じスキルの発動準備に入った。
【ああ……】
【こりゃ、イカン……!】
【も、もうダメだ……おしまいだぁ……】
「和崇さん!! 返事を、返事をしてください!! 和崇さん!! 和崇ぁああ!!」
雪馬は高橋にかばわれながら、自身の火炎魔術とは比べ物にならないスキルの前触れに、すがるように和崇の名を叫んだ。
スキル「妖鳥の灼眼光」
都市部を空中から一方的に爆撃可能な、怪光線による一撃。すべてを吹き飛ばす灼熱の眼光。地上と空からのはさみ撃ちによる二重攻撃。
二連撃であるなら、余波ですらこの矮小なドラゴニュートを確実に仕留められると思い至り、ブラックスワルトはほくそ笑んだ。
この瞬間を、彼は逃さなかった。
「和崇さん!!?」
【レッド!?】
【来た!?】
【きたのか!?】
【おせぇんだよwww】
【信じてたぞぉお!! オッサン!!】
ユニークスキル「原点にして頂点」
自身が参戦する戦場にて、最も最初に攻撃成功した際にのみ発動。
自身の身につけていた物を託した、自身を含めた7名までの生存能力と運命力を、戦闘終了まで大幅に上昇させる。
また、託した6名全員の戦意、または意識がなくなれば一時的に失明する。
「ガァアアアアアアアアアアア!!!」
和崇は血が勢いよく出る己の身体にも構わず、自身が埋まっていた瓦礫を蹴飛ばした。
ケノモのような咆哮をあげ、スキル発動体制中の頭部を目指し駆け上がる。
傷つき落下したブラックスワルトが気づく間もなく、顎下の隙間に大型ナイフの切っ先を叩き込んだ。
ワスプ・インジェクターナイフ・魔術式改良型。
残された9本の指を握り込み、切っ先から消化器よりも圧倒的に、魔術的、技術的に超圧縮された高圧ガスが噴射する。まるで、物語られたドラゴンの火吹きのように。
注入された膨張圧力は、ブラックスワルトの頭脳内部を完全破壊し吹っ飛ばした。そして、運良く発動したスキルは。
「やっぱり、空を畏れる者の勝ちですね」
「……………ケ?」
中佐はなんの気負いもなく、背後に迫る死をヒョイッと避けた。その先には。
スキル発動を準備していたブラックスワルトが最後に目にした物は、自身と同じ姿から放たれた怪光線だった。
◇◇◇
ブラックスワルト二羽は完全に絶命した。頭部を木っ端微塵にされ、胴体から真っ二つになった死体はピクリとも動かず、同時に聖域は静けさを取り戻していた。
「かずたかさぁ~んぅうううう……!」
「うぉっ……勘弁してくれ、ユキメちゃん」
「よく頑張りましたねユキメさん。花丸ですよ」
雪馬が顔をぐしゃぐしゃにして和崇に抱きついてきた。血と泥だらけで思いっきり体当たりされた和崇は、雪馬を受け止めたまま倒れてしまった。
【メディイィイイク!】
【羨ましい……】
【俺もJCを、いや、センシティブだな、うん】
【俺はレッドさんに抱かれたいw】
【ホモはせっかち】
【何にせよ、無事でえがったぁあ】
【このコメントはセンシティブな内容を含んでいる可能性があります】
中佐は倒れ込んだ和崇を魔法で治癒しながら、泣きじゃくる雪馬の背をさすっていた。彼女の持つスマホに連絡が入った。
「情報局からです。魔術干渉の減少を確認。軍も何かと交戦したようですが、無事こちらに向かってくれているそうです」
「…………見えてる」
「ふふんっ、ご褒美に、見せてあげてるんです♡」
【色は!?】
【青だな(。•̀ᴗ-)✧】
【いや、あえて黄色( ꈍᴗꈍ)】
【お前らわかってねえな、そこは赤だろ】
【くっ、1本取られた】
【み、緑派は異端ですか?】
【この動画にはセンシティブな内容を含んでいる可能性があります】
【ドローンさんもう少し右に!】
【まて、今のコメ良く読んだら警告文じゃねえぞ!?】
【ついにバレたか】
「もう、皆さん。ふざけないで下さい!」
「そうですね。私はへたり込んでる3人をなんとかするので、お二人は聖域で身体を洗って、身を清めて下さい。指輪の数字が薄くなるはずですから」
「…………え、その、沐浴を?」
中佐は、にへらっとだけ笑って口元を手で隠して3人の方へ歩きだしてしまった。残された雪馬は血だらけの和崇を見上げて、途方に暮れることになった。
☆☆☆★★★☆☆☆★★★
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